事故車両の全損について
最高裁判所判決昭和49年4月15日交民7巻2号275頁は,修理自体が可能(分損)であるか,
否か(全損)について,次の3つの基準を示しました。
@物理的に修理が不能であること。 A経済的に修理が不能であること。B車体の本質的構成
部分に重大な損傷があること。
この3つの基準の中で,実務上争いになることが多いのはAに関する事件です。
最高裁はAの内容を「修理見積額が当該車両の時価(中古車市場における価額)を超える場合
のことである。」としています。この中古車市場における価額(以下,「車両時価」という。)とは,
当該車両と同一の車種,年式,型式,使用状態,走行距離の車両を中古車市場で取得するための
価額としています。一般に損害保険会社では,「オートガイド自動車価格月報」(通称レッドブック)を
参考に,車両時価を算出しているようです。
なお,全損か分損かの判断について東京地裁平14.9.9交民集35.6.1760があります。
「修理費の額と比較すべき車両全損を前提とする評価額は,車両時価額のみに限定すべき理由
はなく,これに全損を前提とした場合に損害と認められるべき車検費用・車両購入諸費用等を
含めた額とすべきであり,修理費の額がこれらの合計額を下回る場合は,経済的全損と判断
することはできない。」
全損となったときの損害賠償
それでは,車両が全損となってしまった場合どうなってしまうのでしょうか。
修理費用が車両時価を超えてしまう場合は,例え現実に車両時価を超えた修理費を被害者が
支出し、実際に事故車両を修理したとしても、原則車両時価からスクラップ代金(事故車両の
残存価値)を控除 した残額しか損害賠償額として認定されません。ただし,このスクラップ価値
はある程度の事情(高年式車,高級車,人気車種等)がない限り,鉄材の値下がり等の現在の
経済事情により0評価されるため,車両時価から控除されないケースが多数だと思われます。
(逆に事故車の処分代を解体業者から請求されてしまうケースもあります。)
なお,東京高裁昭和57年6月17日判決が,時価を超えた修理費の請求に対して「被害車両
と同等の自動車を中古車市場で取得することが至難であるか,または,被害車両の代物を取得
するに足る価格相当額を超える高額の修理費を投じても被害車両を修理し,これを引き続き使用
したいと希望することを社会通念上是認するにたる相当の事由が存する等の特段の事情が
見当たらない。」と判示していることから,特段の事情があれば,時価を超えて修理費を損害
賠償額とする余地があると解することができます。しかし,この特段の事情を認めてもらえるケース
は稀であると思われます。
また,全損時に同等の中古車を購入するに当たって必要となる諸経費は,個々の費目によって
認められるものと認められないものがあります。